これから数日にわたって、発達性トラウマ障害についてご紹介していきます。が、小難しい話が続きますので、最初にざくっとまとめておくことに致します。
何故、《発達性トラウマ障害》という概念が提出されたのか。それは、トラウマが子どもにもたらした影響について考える際に、既存のPTSD(心的外傷後ストレス障害; Post-Traumatic Stress Disorder)という診断基準では不十分だったからです。
子どもの話である、というのが重要な点です。
というのも、子どもは発達段階の途上にあるので、トラウマ体験は、健全な精神発達そのものをゆがめる要因となってしまうのです。
では、何が不十分だったのか。それを考えるためには、トラウマ的な体験が1回きりのものか、それとも慢性的に繰り返されるものかを、分けて考える必要があります。後者を、慢性反復的なトラウマ体験と呼びます。子どもが経験する慢性反復的なトラウマ体験で、もっともわかりやすい例は虐待でしょうか。
慢性反復的なトラウマ体験の中では、子どもは特殊なやり方で日常的トラウマ体験に耐えようとし、その方法を習慣化させてしまうのです。そうすると、過度に抑制的で警戒的になったり、両価的で矛盾した反応を示したり、無分別な対人関係パターンを示すようになったりします。これらは、PTSDという診断基準だけでは、決して捉えきれないことがらなのです。
そこで、慢性反復的なトラウマ体験が子どもに与える精神的影響を包括的に捉えるため、
《発達性トラウマ障害》の診断基準が提出されたということです。
参考文献: Van der Kolk, B. A., et al. (2009) Proposal to include a developmental trauma disorder diagnosis for children and adolescents in DSM-Ⅴ.
参考文献:飛鳥井望(2007)各論 心的外傷後ストレス障害(PTSD)(子どもを蝕む大人の病気), 小児科, 48(5), 758-762.
参考文献:田中究(2016)特集 子ども虐待とケア 児童青年精神医学とその近接領域, 57(5), 705-718.
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