発達性トラウマ障害(Developmental Trauma Disorder; DTD)の紹介に先立って、第1回では「不適切な養育環境下で起こる、慢性反復的なトラウマ体験の影響は、PTSDという診断基準では捉えられないこと」について述べました。また、第2回では、「慢性反復的なトラウマ体験の影響が、単回性のトラウマ体験と大きく異なること」について述べました。
いずれも、子どものトラウマの話です。大人のトラウマと違って、子どもは発達途中の段階にあるので、その段階で影響を受けることが後々の人生においてどのような影響につながっていくのか、ということについて目を向ける必要があります。
子どもを取り巻く環境が、子どもの生物学的(生理学的、内分泌的)および心理学的な内界にどのように影響し、子どもの感情調節、注意、認知、知覚、対人関係の成熟に影響するか、ということについては、まだ十分な知見は得られていない状況にあります。
一方で、虐待やネグレクトによるトラウマを受けた子どもの研究(Spinazzola, et al., 2005)からは、これらの子どもにはPTSDや不安障害の診断基準では捉えられない様々な症状がみられることが示されました。
具体的には、次の通りです。50%以上の子どもに、感情調節障害、注意および集中の障害、否定的な自己像、衝動コントロールの問題、攻撃性や危険を顧みない行動の問題が見出されました。また、1/3の子どもに、身体化、問題行動や反抗挑戦性、年齢不相応な性的関心や性的行動、アタッチメントの問題、解離症状が見出されました。
こうした臨床的な知見の蓄積から、慢性反復的なトラウマ体験が子どもに与える精神的影響を包括的に捉えるために提出されたのが、《発達性トラウマ障害》なのです。
参考文献: Van der Kolk, B. A., et al. (2009) Proposal to include a developmental trauma disorder diagnosis for children and adolescents in DSM-Ⅴ.
参考文献:飛鳥井望(2007)各論 心的外傷後ストレス障害(PTSD)(子どもを蝕む大人の病気), 小児科, 48(5), 758-762.
参考文献:田中究(2016)特集 子ども虐待とケア 児童青年精神医学とその近接領域, 57(5), 705-718.
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