発達性トラウマ障害の紹介に入る前に、もう一つ、述べておかなければならないことがあります。
Terrは、子どものトラウマをⅠ型(単回性)とⅡ型(慢性反復性)に分類(Terr, 1991)しました。Ⅰ型とⅡ型に共通するのは、1.反復的な視覚化された記憶、2.反復的行動、3.トラウマに結び付いた特定の恐怖、4.人生や将来に対する態度の変化、です。
一方で、Ⅰ型トラウマの特徴として、1.驚くほど詳細な記憶、2.前兆形成 Omen formation、3.誤認知を挙げました。Ⅱ型トラウマの特徴としては、1.否認・精神的麻痺、2.自己催眠・解離、3.激しい怒りと受身性を挙げました。
ここで重要なのは、Ⅱ型トラウマが慢性反復性のものであるということ、つまりトラウマ的な体験が「反復される」という点です。
反復的・持続的なトラウマ的体験を受けてきた思春期・青年期には、自傷行為、物質乱用、爆発的な怒りや解離症状がみられる(Goodwin, 1988; Hornstein, 1996)という報告があります。
また、反復される外傷的体験への防衛として、外傷的体験の否認、周囲からの疎隔、同一性の変容や混乱、攻撃的な行動や自傷、対人関係や自己評価への障害が生じる(Terr, 1991)という報告もあります。
つまり、一回きりのトラウマ的な出来事に対する反応は、反復的・持続的なトラウマ的体験への反応とは、大きく異なる部分があるのです。前回のポストで、PTSDの診断基準は、単回性のトラウマに適する一方で慢性反復性のトラウマには適さないと記しましたが、それはこういうことなのです。
反復・持続的なトラウマ体験によって、子どもは無力な状態に留め続けられます。これがトラウマの中核です。子どもはこうした関係の中で、外部の他者に支援を求めることが困難で、その関係に留まらざるを得ません。その中で、独特な適応のパターンを身に着けます(田中・白川, 2006)。
その結果、子どもは単回性トラウマにみられるPTSD症状に加えて、対人関係での歪みなど、複雑な症状を示します。
参考文献: Van der Kolk, B. A., et al. (2009) Proposal to include a developmental trauma disorder diagnosis for children and adolescents in DSM-Ⅴ.
参考文献:飛鳥井望(2007)各論 心的外傷後ストレス障害(PTSD)(子どもを蝕む大人の病気), 小児科, 48(5), 758-762.
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