発達性トラウマ障害(Developmental Trauma Disorder; DTD)というものについてご紹介したいのですが、そのためにはまず、心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder; PTSD)から始める必要があります。
PTSDは、単回性のトラウマ的な出来事によってもたらされる障害です。PTSDの症状の中核は、1.再体験症状、2.回避・精神麻痺症状、3.過覚醒症状、の3症状です。具体的な説明は長くなってしまうので、ここでは割愛いたします。
さて、このPTSDの診断基準は、安全で予測可能な養育システムの中で生きる子どもが、単回のトラウマ的な出来事から受けた影響を把握するのには適しています。
一方で、不適切な養育環境下で、対人関係上の暴力の被害者となった子どもの症状を把握するには、PTSDの診断は適さないのです。
例えば、虐待を受けた子どもの内、58%は分離不安障害、36%は恐怖症、35%はPTSD、22%はAD/HD、22%は反抗挑戦性障害と診断されました(Ackerman, et al., 1998)。つまり、不適切な養育環境下の子どもが呈する症状は、PTSDよりも不安障害や恐怖症の方が多いということです。
また、性的虐待にあった女の子を対象とした前向き研究 prospective study の結果からは、不安、反抗挑戦性障害、恐怖症を呈する一群と、うつ病、自殺傾向、PTSD、AD/HD、行為障害を示す一群に分かれることが示されました(Noll, et al., 2003)。つまり、性的虐待による影響を、PTSDの診断基準では捉えられない一群が示されたということです。
以上のことから、不適切な養育環境における慢性反復的なトラウマ体験の影響は、PTSDの診断基準では十分には捉えられていない(Green, et al., 2000)という指摘が起こったのです。
参考文献: Van der Kolk, B. A., et al. (2009) Proposal to include a developmental trauma disorder diagnosis for children and adolescents in DSM-Ⅴ.
参考文献:飛鳥井望(2007)各論 心的外傷後ストレス障害(PTSD)(子どもを蝕む大人の病気), 小児科, 48(5), 758-762.
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