感情労働について書きたいのですが、その前に、まず鍵概念を整理する必要があります。
【感情管理 emotion work】とは、「観察可能な表情や身体的表現を作るために(自分の)感情を管理する」ことを意味します。そして、職務として「(顧客の中に)適切な精神状態を作り出す」ことを目的とした感情管理を、【感情労働 emotional labor】と呼びます。
心理的過程を表す上でより適切だという理由から、感情労働に対して emotion work という訳語を用いる定義(e.g., Zapf, 2002)もあります。私のポストでは、Hochschild(1983)に倣うことにします。
さて、感情労働には、3つの特徴があります。
第1に、対面あるいは声によって人と接することが不可欠な職種に生じます。
第2に、他人の中に何らかの感情変化(感謝や安心など)を起こさなければなりません。
第3に、雇用者が研修や管理体制を通じて労働者の感情をある程度支配します。
私たち心理職の仕事は、感情労働と言えるでしょう。他にも看護師や介護士など、対人援助職と呼ばれる仕事に就いている方は、感情労働をしていると言えます。
自分が感じていない感情を表出すること(感情の不協和)が心理的健康を阻害する(Hochschild, 1983)と考えられてきました(これについては、次のポストでさらに記しますので、そちらを併せてご覧ください)。
また、望ましいとされる感情を心から感じるよう、自分の感じ方そのものを変える【深層演技】というものがあります。感情労働の中で、深層演技を続けるうちに、自分の本当の感情を感じないように無意識の防衛(感情麻痺)を行うようになります。
感情労働において、職務上求められる「感情表出ルール」に従って、顧客などの他者に満足や決断といった変化をもたらすために、自らの感情を隠し、もしくは、感じてもいない感情を感じているかのように振る舞うなど感情をコントロールすること(関谷・湯川, 2009)が、心に負担を与えると考えられてきました。
参考文献:荻野・瀧ヶ崎・稲木(2004) 対人援助職における感情労働がバーンアウト
およびストレスに与える影響.心理学研究, 75(4), 371-377.
関谷・湯川(2009) 対人援助職者の感情労働における感情的不協和経験の
筆記開示.心理学研究, 80(4), 295-303.
Comments